『職員のつぶやき』のページ開設
2022.02.17


「介護の世界に入ったきっかけ」 

総合ケアセンター 駒場苑
施設長 坂野悠己

 総合ケアセンター駒場苑の施設長の坂野です。このコーナーでは職員さんが日々介護の仕事をしている中でのエピソードや想いを発信したり、職員さんへのインタビュー記事を載せたりしていきたいと考えています。今回ははじめの記事として、私自身の介護の世界に入ったきっかけの話をここでさせて頂きたいと思います。 

 私が介護の世界に入ったのは、大学生の時です。大学と言っても介護には何にも関係のない大学でした。そんな私が介護の世界を知ったのは、ただただ時給の高いアルバイトを探してフリーペーパーを見ていたら、そこに「施設のケアワーカー」という募集があり、その時給が当時の私のアルバイト先の時給より高かったので目にとまった、という理由です(笑)

 私は老人ホームでおじいちゃんおばあちゃんと、お茶でも飲みながらお話ししたりしてるだけでこんなに良い時給がもらえるんだ!とすぐに電話をかけ、面接に行き、「男手が必要だった」というその時はよく分からない理由で採用になりました。

 そこは特養でしたが、後に大昔の老人病院に近い所だったと知りました。私の知る限り、食堂等、起きて過ごすスペースはありませんでした。全員入居と同時に、強制的にベッド上の食事となり、オムツをあてられてしまいます。私のはじめの仕事は、朝食後に端の部屋から端の部屋まで、先輩と順番にオムツを換えていくという仕事でした。

 この施設では日中に朝昼夕食後3回のオムツ交換が決められていました。すべて何とか換え終わると、どこかの部屋から便の臭いがしてきます。皆が皆、同じタイミングで便が出ないので、オムツ交換後に出てしまったのでしょう。布オムツなので、素人の私にも便が出てしまった人の部屋が臭いで分かります。すぐに換えてあげなきゃ、とその部屋に行こうとすると、先輩に「どこ行くの。もうオムツ交換の時間は終わったんだから、やらなくていいの。そんなのいちいち対応してたら仕事まわらないよ。」 とひき止められました。その便が出てしまったおばあちゃんは、その後、便が出たままの状態でお昼ご飯を食べて、その後のオムツ交換の時間でやっとオムツを交換してもらっていました。

 さらにその施設には、元気な高齢者も結構入居していて、その人達からすると入居と同時に寝たきり、オムツになるのはもちろん抵抗があるのでしょう。ベッドから起きて部屋を出てきます。

 そういう人達の事をこの施設では問題行動をする人と位置付けていました。そういう人達はすぐにベッドを4点の柵で囲んでベッドからおりられないように対処されていました。それでもさらに元気な人達は、柵を乗り越えて出てきたり、柵を自分で抜いて出てきます。そういう人達は超危険人物として、手首を紐で縛られ柵に結ばれていました。

 お風呂も魚屋のようなエプロンと、長靴をした職員が何人かで部屋に入り、部屋のベッドで裸にしてから、ストレッチャーに乗せ、バスタオルを一枚かけて、廊下を移動してお風呂場に連れていっていました。

 私は、正直おじいちゃんおばあちゃんとお茶を飲んで過ごすくらいのイメージで来た事もあり、その仕事内容はもちろん、そのおじいちゃんおばあちゃんの状況に非常に違和感をおぼえました。そして同時に怒りも、です。直感的に「ここは人が最後に死んでいく場所なんだろう。でも人が最後に死んでいく場所でこんな状況は異常だ。おかしい。許せない。」と思い、それを先輩職員にぶつけていきました。

 「なんで起きちゃダメなんですか?なんでトイレに行っちゃダメなんですか?なんでこちらの決めた時間以外でオムツを替えたらいけないんですか?なんで縛る必要があるんですか?なんで裸のまま廊下を移動するんですか?起きたっていいじゃないですか。トイレに行ってもいいじゃないですか。お風呂場で脱げばいいじゃないですか。」それに対する先輩職員達の答えは「だからそんな事いちいち対応してたらまわんないから。介護ってそういうもんだから。坂野くんはまだはじめたばかりだから分からないんだよ。若いね~。」

 先輩職員に言っても通じないと思った私は直接施設長の所に行き、同じ事を施設長に訴えました。するとそこの施設長は「ほんとそうだよね。坂野くんの言うとおりだよ。起こしてあげたいよね、トイレに連れていってあげたいよね、お風呂もゆっくり気持ちよく入ってもらいたいよね。すごく分かるわ。これからそういう状況を変えていこうと思うからがんばろうね」と言ってくれました。

 少し安心してしばらく働きますが、特に目立った変化はありませんでした。そこでもう一度施設長の所に行き、「こないだお話した件、どうなっていますか?」と聞きに行きました。するとその施設長は、「そうだよね、ほんと坂野くんの言うとおりだよ。そこに近づけるようにがんばるからね」というお言葉。数年後、私は気付く事になります。この時、施設長が私にしていた事は「傾聴」だったという事に。傾聴して、共感する姿勢は見せるけれども問題解決にはあたらない。言わばトイレに行きたいと利用者が言っているのに、「そうだよね、トイレに行きたいよね~」と言いながらトイレには連れていかない、というイメージです。

 数回、そのラリーを施設長と繰り返した結果、施設長から呼び出されて私は1ヶ月でそこの施設をクビになりました。向こうからしたら、めんどくさいバイトが入ってきた、きれい事言ってクレームばかり、そんなバイトめんどくさいのでやめてもらいましょう、となったのでしょう。

 そして、私はそのクビになった事にも腹が立ちました。「おかしい事をおかしいと言ったら排除される。なんだこの介護という世界は。こんな劣悪な状況の世界を知ってしまった以上、その世界を変えてやりたい!」この怒りが、数十年ずっと私を駆り立てるモチベーションになっています。

数十年後、私は転職した特養駒場苑で仲間達と7つのゼロを掲げて施設改革をする事となります。その7つとは、寝かせきり、オムツ、機械浴、脱水、誤嚥性肺炎、拘束、下剤、です。掲げた時は、特に意識していなかったのですが、はじめて働いたあの特養ですべてあった7つ、本人の意思関係なく強制的にされてしまっていた7つだった事に後に気付く事になりました。あの頃の怒りはまだ忘れていません。

 今では総合ケアセンター駒場苑の施設長になり、主任、リーダー、介護職や専門職の皆さんに現場を任せる立場になり、今は経営や採用、事務や外部のお仕事をする事が多くなりましたが、あの頃の想いと怒りはそのままに、特養だけでなく、駒場苑グループ全6事業で在宅で暮らしている方から施設入居されている方まで、高齢者の皆さんが、最後まで、気持ちよく、主体的で、その人らしい生活を過ごして頂けるように仲間達と取り組んでいきたい、そしてそれを発信していく事で、そういった場所が1つでも多く増え、この世界をより良い場所に変えていけたらと考えています!
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